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最高裁判所第一小法廷 昭和54年(行ツ)75号 判決

北九州市若松区浜町三丁目一二番二四号

上告人

玉神汽船株式会社

右代表者代表取締役

清水剛

右訴訟代理人弁護士

元村和安

福岡市博多区博多駅東二丁目一一番一号

被上告人

福岡国税局長

山本昭市

北九州市若松区白山一丁目二番三号

被上告人

若松税務署長

伊藤貫一

右両名指定代理人

馬場宣昭

右当事者間の福岡高等裁判所昭和五三年(行コ)第一〇号法人税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和五四年二月二八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人元村和安の上告理由第一点について

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件台船が減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四〇年大蔵省令第一五号)別表第一所定の種類・船舶、構造又は用途・その他のもの鋼船、細目・その他のものに該当し、したがって、その法定耐用年数は一二年であるとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第二点について

原審が適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件更正処分に信義則違反の違法事由はないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 団藤重光 裁判官 藤崎萬里 裁判官 中村治朗 裁判官 谷口正孝 裁判官 和田誠一)

(昭和五四年(行ツ)第七五号 上告人 玉神汽船株式会社)

上告代理人元村和安の上告理由

第一点 原判決は減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四〇年大蔵省令一五号)の解釈適用を誤り、もって、右省令に違背し、この違背が判決に影響を及ぼすことは明白である。すなわち、原判決は「本件台船は船舶法四条から一九条までの適用を受けない鋼製の船舶で、鉄柱の枠に鋼板を張ったマッチ箱様の形状をなし、甲板上は平らで構造物を有さず、動力機関の備え付けもなく(したがって、通常乗員を必要としない。)、その用途は、一般の船舶に搭載しにくい積荷を乗せて曳航し、あるいは、しゆんせつ船等に繋留して甲板上を作業用資材置場に利用するものである」と認定しながら、これを右省令別表第一の種類・船舶、構造又は用途・その他のもの鋼船、細目・しゆんせつ船及び砂利採取船に該当しない旨指示しているが、右認定事実からすれば、本件台船は、その実質から考慮して、右別表の細目・しゆんせつ船及び砂利採取船に該当することは明白であり、これを「その他のもの」に該当するとした原判決は、右省令の解釈適用を誤り、もって右省令に違背したものであり、この違背が判決に及ぼすことは明白である。

第二点 原判決は、法の根本原則である「信義誠実」の原則に違背し、この違背が判決に影響を及ぼすことは明白である。すなわち、原判決は「本件台船と同様の構造、用途を有する台船(デッキバージとも呼ばれる。)は、若松地方においては昭和四〇年頃から造られ始め、昭和四七、八年頃急に増えたものであるが、これを所有する海運業者が法人税を申告するに当たり台船の減償却費を損金に計上するに際しては、その耐用年数を七年として計算することが多く、昭和四三年頃一部の業者が若松税務署の職員から右の取扱いでよい旨の誤った示唆を受けたこともあって、台船の耐用年数は七年である旨の認識が若松地方の海運業者間に一般化していた」旨認定し、一方「本件台船は昭和四八年五月頃発注され、昭和四九年一月頃完成したものであるが、原告も他の海運業者と同様に、同年五月頃被告」税務署の「職員から指導を受けるまでは台船の耐用年数は七年であると考えていた旨認定し、従って、右認定事実からすれば、「本件台船の耐用年数を一二年としてその減価償却費を計算することは、原告が当初予想していたところに比して課税上不利益となることは確かであり、かつ、かような結果となったのについては、行政指導によろしきを得なかった被告課税庁の側にも責められるべき点があった」旨判示している。右のような認定からすれば、本件台船の耐用年数を一二年として課税することは、上告人(原告、控訴人)の国に対する(課税庁に対対する)信頼を裏切ることとなり、法の根本原則である信義誠実の原則に照らし違法なることは明白であり(中川一郎編税法学体系全訂版一九七五年三晃社発行一一三頁から一二四頁ならびに、そこに引用されている文献御参照)、これと異る見解をとる原判決は法の根本原則である「信義誠実」の原則に違背し、この違背が判決に影響を及ぼすことは明白である。

よって、原判決は破棄されるべきものである。

以上

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